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2025.11.10
【リーダーズミーティング開催レポート(第2回企業訪問)】

百年続く製造業のデジタル戦略:高性能モバイルデバイス導入とデータに基づいた現場革新

地域産業団地の一角に拠点を置く、創業100年を超える企業様は、大量生産部門と多品種少量生産部門の二つの柱で事業を展開しています。コスト競争力は低いものの、顧客が指定した納期に間に合わせるための徹底した納品管理を強みとしています。また、高い品質管理基準と環境マネジメントシステム(ISO基準)を構築しています。
同社は、全社的な公平性と成長を促進するためのユニークな人事制度と、製造現場の効率化を目指したデジタル変革(DX)を進めています。

独自の組織文化と公正な人事評価制度

  1. 全員参加型の人事評価: 3か月に一度、5段階評価を実施しています。特徴的なのは、全ての上司が集まり、部下全員の最終評価を決定する点です。これにより、評価のバラつきを防ぎ、公平性を担保しています。
  2. 賞与原資の透明性: 粗利益のn%(定率)を賞与の原資に充てることを事前に公表し、毎月の粗利も公開することで、従業員が賞与の目安を事前に把握できるようにしています。
  3. アイデア創出時間(イノベーションタイム): 業務時間の5%(年間98時間相当)を、顧客の課題解決や新たな価値創造に貢献するための活動に充てて良い「権利」として設けています。

デジタル基盤の統合と高性能モバイルデバイスの全員支給

同社は情報共有の効率化を目指し、デジタル基盤の整理から着手しました。

  • グループウェアの変遷と統合: 初期には安価なグループウェアから始め、その後、他のツールやチャットツールを試しましたが、容量制限や操作性の難しさから、最終的に統合型クラウド生産性向上ツールに一本化しました。
  • 管理職による利用促進: この統合ツールの利用を浸透させるため、管理職以上に対し、毎日活動報告をプラットフォームに記入することを義務付けました。この習慣は導入後6~7年経過した現在も継続しています。
  • 全社員へのモバイルデバイス支給: 動作の良さや、他社の事例を参考に、全社員に高性能モバイルデバイス(タブレット端末)を支給しました。現場作業者向けには、メール、予定表、コミュニケーション機能などに限定された低価格なライセンスが利用されています。

生産管理システムのデジタル化と正確なデータ取得

同社は、大量生産部門と多品種少量生産部門という異なる特性を持つため、二つの生産管理システムを運用しています。

多品種少量生産部門では、以前は作業実績入力が終業時にまとめて行われていたため、作業時間の正確な把握が困難でした。

  • 現場からの直接入力: 補助金を活用し、作業者が自身の支給タブレットから作業開始/終了の実績を直接入力できる仕組みを構築しました。これにより、作業時間の把握精度が向上し、結果として見積もり精度の向上にも繋がると期待されています。
  • 過去情報参照機能: 新システムには「加工記録(カルテ)」機能が追加され、過去の不具合や段取り情報を確認しないと次の生産に移れない仕組みも導入されました。

IoTによる稼働状況の「見える化」

改善活動は数値やデータに基づかなければ進まないという考えに基づき、IoTを用いた現場データの収集にも注力しています。

  • 設備稼働状況の自動取得: 安価なコンピュータと光センサーの仕組みを構築し、工作機械の信号灯(パトライト、特に緑色)の点灯時間を自動で取得しています。これにより、機械の稼働状況を月単位でグラフ化して把握でき、停止原因の追求や改善策の検討に活用されています。
  • 進捗確認の試験導入: 組み立て工程の進捗確認のため、リアルタイム認識が可能な特殊なコード技術(先進的なマーカー)を試験的に導入しましたが、現在は稼働していません。
  • 今後の定量化の試み: ある部門の組み立て工程において、重量センサーを使って作業前後の部品の動きを計測し、作業の定量化を図る計画があります。

その他のデジタルサービス導入

営業や積算業務の効率化のため、最近では、専門の名刺情報共有サービスや、類似図面を検索して見積もりを支援するクラウド図面管理システムの導入も進めています。

【総括】

同社が行うDXは、単なるツールの導入に留まらず、人事制度の透明性や、現場のデータ取得を容易にするための工夫と補助金の活用、そして「データがなければ改善はできない」という一貫した哲学に裏打ちされています。高性能モバイルデバイスを全社員に普及させ、個人の作業実績をリアルタイムに近い形で収集する基盤を整えることで、100年企業が持つ確かな技術力に、デジタルによる「測定と改善」の力を加えています。